インプラントが取れた!応急処置やおもな原因、治療費用などを全解説
2025.02.06
インプラントは、入れ歯やブリッジと比べて寿命が長く、安定性に優れた治療方法です。しかし、何らかの原因でインプラントが取れてしまうケースもあります。
インプラントが取れた場合は歯科医院に連絡し、できるだけ早く受診して再治療することが大切です。
本記事では、インプラントが取れた際の応急処置のやり方や取れてしまうおもな原因、取れたときの注意点、治療費の目安について解説します。
インプラントが取れた際の応急処置【5ステップ】
インプラントが取れてしまった場合は、以下のような手順で応急処置を施す必要があります。
- どのパーツが取れたのかを確認する
- 取れたインプラントを清潔に保管する
- 口腔内を清潔にし、血が出ている場合には止血する
- 強い痛みがある場合には、患部を冷やすか鎮痛剤を服用する
- 速やかに歯科医院に連絡・受診する
各ステップの詳細を見ていきましょう。
どのパーツが取れたのかを確認する
インプラントは失った歯を補う人工物であり、以下の画像のように、おもに「上部構造(人工歯)」「支台部(アバットメント)」「歯根部(インプラント体)」という3つのパーツから構成されています。
外れたパーツによって、原因や緊急性、応急処置の方法などは異なるため、インプラントが取れてしまったら、まずはどのパーツなのかを確認する必要があります。
その際、取れたパーツを自分の手で戻したり、むき出しになった箇所に触れたりしないようにしてください。インプラントの状態を悪化させたり、感染症を引き起こしたりする危険性があります。
人工歯が取れた場合、土台であるインプラント体やアバットメントには異常がない可能性が高く、比較的リカバリーが効きやすいでしょう。ただし、急な脱落によって人工歯を紛失したり、欠けたりした場合には、パーツ自体を作り直さなければなりません。
アバットメントが取れると、その上に装着されている人工歯もセットで抜けてインプラント体がむき出しの状態になるため、早めの対処が必要です。アバットメントが破損している場合には、パーツを取り替えなければならないかもしれません。
そして、最も緊急性が高いのは、インプラント体が取れた場合です。骨や歯周組織に異常が生じた結果、顎の骨と結合しているパーツが取れてしまったと考えられるため、専門医による早急な対処が必要です。
取れたインプラントを清潔に保管する
取れたパーツに汚れや血が付着している場合は、流水で軽くすすいで清潔にしましょう。パーツを誤って排水口に落とさないよう、作業は洗面器の上などで行なうことをおすすめします。
パーツがきれいになったら、清潔な容器に保管したうえで歯科医院に持参してください。
なお、パーツを洗浄する際に強くこすったり、消毒液や洗剤に浸けたりすると破損につながるおそれがあります。破損すると余計な費用が発生することになりかねないため、軽い水洗い程度に留めておきましょう。
口腔内を清潔にし、血が出ている場合には止血する
食事後などで口腔内が汚れている場合は、むき出しになった箇所に触れないよう注意しながら、やわらかい歯ブラシで患部周辺を優しく磨きましょう。口腔内を清潔にしておかないと、感染症のリスクが高まります。
抗菌性のうがい薬を併用すれば、より清潔な状態を保てます。
また、口腔内で出血が見られるようなら、患部に清潔なガーゼやティッシュを当てて止血しましょう。強い力を加えると逆に出血しやすくなるため、ソフトタッチを意識することが大切です。
強い痛みがある場合には、患部を冷やすか鎮痛剤を服用する
インプラントが取れた箇所に強い痛みがあるものの、歯科医院をすぐに受診できない場合は、患部の外側から濡れタオルなどを当てて冷やしてください。痛みを和らげるために、市販の鎮痛剤を服用するのもよいでしょう。
激しい痛みや腫れが続く場合は、インプラント周囲炎の発症が疑われます。
速やかに歯科医院に連絡・受診する
応急処置が済んだら、インプラント治療を受けた歯科医院に連絡して、現状を説明して指示を仰ぎましょう。連絡時には、以下のようなポイントを伝えるとスムーズです。
- いつ取れたか
- 何をしているときに取れたか
- 口腔内の状態に問題はないか
- 痛み・腫れ・出血などの症状が出ているか
- 以前から取れそうな予兆があったか(グラつき、違和感など)
事前にポイントをメモしたうえで連絡すれば、より正確に現状を伝えられます。インプラントのトラブルは放置せず、できる限り速やかに受診することが大切です。
インプラントが取れるおもな原因
インプラントが取れる原因はパーツによって異なるため、個別に把握しておくことが大切です。
ここでは、おもな原因をパーツ別に解説します。
上部構造(人工歯)が取れる原因
人工歯が取れるおもな原因には、以下のようなものがあります。
- ネジの締め付けが甘かった(スクリュー式の場合)
- 接着部のセメントが劣化した(セメント式の場合)
- 人工歯そのものが経年劣化した
- 噛み合わせに問題があった
- 歯ぎしりや食いしばりなどの癖で負担がかかった
- 虫歯や歯周病があった
セメント式のインプラント治療では、長期的なメンテナンスをしやすくするために、あえてやわらかいセメントを使用します。そのため、人工歯が取れてしまうケースも珍しくありません。
しかし、人工歯があまりに高頻度で取れてしまう場合は、何らかの問題が生じていると考えられます。また、人工歯を固定するセメントが経年劣化を起こすと、脱落につながる可能性が高まります。
一方のスクリュー式のインプラント治療の場合も、経年劣化やインプラントへの負荷によってネジの締め付けがゆるんでしまい、人工歯が取れることがあります。
人工歯の平均寿命は10年程度です。それを過ぎると破損や脱落が起こりやすくなります。
さらに、噛み合わせが悪かったり、就寝中に歯ぎしりや食いしばりをしていたりすると、インプラントに強い負担がかかり、人工歯のトラブルにつながるでしょう。虫歯や歯周病などの影響で歯茎が下がった際にも、インプラントがグラつきやすくなり、人工歯が取れてしまうことがあります。
支台部(アバットメント)が取れる原因
アバットメントが取れるおもな原因としては、以下が挙げられます。
- アバットメントの固定が甘かった
- アバットメントのネジにゆるみ・破損があった
- 素材が経年劣化で破損した
- 噛み合わせに問題があった
- 口腔内の衛生状態が良くなかった
アバットメントの素材は、時間の経過とともに劣化する点にも注意しなければなりません。
また、噛み合わせの問題でネジがゆるんだり、壊れたりすることもあります。そのほか、インプラント周囲炎を患うなど口腔内の衛生状態が悪いために、アバットメントが取れてしまうケースも少なくありません。
歯根部(インプラント体)が取れる原因
インプラント体が取れるおもな原因は、以下のとおりです。
- 不適切な治療で患部に問題が生じた(細菌感染など)
- 歯科医師の技術・経験が不十分だった
- 顎の骨とインプラント体の結合がうまくいかなかった
- 術後の口腔内の衛生管理が良くなかった
- 糖尿病など、術後の傷口の治癒に悪影響をもたらす要因があった
上記のうち、主要な原因はインプラント治療後の経過時間によって異なります。時期別に原因の違いをまとめたので、こちらも併せて把握しておきましょう。
治療後、数ヵ月の間に取れた場合
インプラント治療の完了後、数ヵ月の間に取れてしまった場合には、顎の骨とインプラント体の結合がうまくいかず定着しなかったことが、脱落のおもな原因であると考えられます。
本来なら、インプラント体は骨性癒着によって数ヵ月で結合しますが、まれに以下のような問題から、結合に失敗するケースがあります。
- インプラント体を埋め込んだ顎の骨の状態が悪かった
- 手術を行なった医師の技量が不足していた
- 術中・術後の口腔内の衛生状態に問題があった
これらのリスクを避けるためには、インプラント治療に精通した専門医による検査や施術を受けることが大切です。インプラント専門医の選び方に関しては、以下の記事をご覧ください。
関連記事:
インプラント専門医・歯科医院の選び方とは?押さえておきたいポイント11選を徹底解説
治療後、数年経ってから取れた場合
インプラント治療後、数年ほど経過してからインプラント体が取れてしまった場合、考えられるおもな原因は、「インプラント周囲炎」です。
インプラント周囲炎とは、口腔内の不衛生な状態が続くことによって歯周病菌が増殖し、歯茎の炎症や腫れなどを引き起こす疾患です。症状が進行すると歯茎が下がったり、骨が溶けたりして、インプラント体が抜けてしまうことがあります。
インプラント周囲炎を予防するには、毎日の歯磨きを徹底することが大切です。さらに、喫煙や暴飲暴食を控え、口腔内の衛生状態を清潔に保ちましょう。
また、治療完了後も定期的に歯科医院に通い、歯のクリーニングや歯石・プラークの除去といったメンテナンスを受けることも重要です。
インプラントが取れた際の注意点
インプラントが取れた場合は、以下のような点に注意する必要があります。
- 自力で対処しようとしない
- 取れたパーツの保管方法に気を付ける
- インプラントが取れた箇所で食べ物を噛まない
それぞれ、詳しく解説します。
自力で対処しようとしない
インプラントが取れてしまったことに焦り、自力でパーツを元に戻そうとする行為は禁物です。無理に対処すると、破損したパーツで口腔内を傷付けてしまうことがあります。
素人目で見てもわからない細かい破損が生じている可能性もあるため、それ以上状態を悪化させないという意味でも、自力での対処は避けましょう。
また、工作用の接着剤などでパーツを修復しようとする行為も避けてください。接着剤には身体に有害な成分が入っている可能性があり、誤って飲み込んだり、口腔内に付着したりすると健康被害を引き起こしかねません。
インプラントが取れたからといって手や舌で患部に触れることはせず、できるだけ速やかに歯科医院を受診することが重要です。
取れたパーツの保管方法に気を付ける
取れたインプラントのパーツを、ティッシュや紙に包んで保管するのは避けましょう。家族がゴミと間違って捨ててしまい、結果的に紛失してしまうケースは少なくありません。
先述のとおり、取れたパーツは清潔な容器に入れてください。食品用保存容器や化粧品クリームのケース、アクセサリーケースなど、外部から力が加わってもパーツが変形・破損しない容器がおすすめです。ジップ付きの保存袋を使うときは、パーツが変形したり壊れたりしないように注意して保管しましょう。
インプラントが取れた箇所で食べ物を噛まない
インプラントが取れた箇所は、内部のパーツや歯茎が露出したデリケートな状態になっています。その箇所で食べ物を噛むと、出血するだけでなく細菌感染を引き起こすことになりかねません。
残存した部品で口腔内を傷付けてしまう可能性もあるため、噛み方には注意しましょう。受診日まで患部に負担がかからないよう、食べ物は反対側の歯を使って噛むことを意識してください。
また、食事の際は食べ物を小さくカットしてから口に入れる、インプラントが直るまで固い物をなるべく食べないといった配慮も大切です。
インプラントが取れた際にかかる治療費の目安
インプラントが取れた際にかかる治療費は、外れたパーツや口腔内の状態、治療を受けた歯科医院によって変動します。
ここでは、パーツごとに治療費の目安を紹介するので、ぜひ参考にしてください。
人工歯、アバットメントが外れた場合
人工歯やアバットメントが外れたものの、パーツ自体は破損していない場合、数千円程度の治療費で済むことが少なくありません。人工歯の再装着だけであれば、500円程度で対応してもらえるケースもあるでしょう。
また、インプラント治療は自費診療で健康保険は適用されませんが、多くの歯科医院やメーカーでは保証期間を設けています。保証期間内に外れてしまった場合は無料で付け直してもらえる可能性があるため、事前に確認しておきましょう。
インプラントの保証期間・保険適用に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:
インプラントの保証期間はどれくらい?保証の条件や確認すべきことを徹底解説
インプラントは保険適用になる?健康保険で治療を受けられる条件を解説
人工歯、アバットメントの紛失・破損があった場合
パーツを紛失してしまった、あるいはパーツの破損があった場合には、修理や作り直しが必要になり、治療費も高くなります。人工歯なら5万~15万円程度、アバットメントなら5万円以上が目安です。
ただし、修理や作り直しも保証期間内なら無料、もしくは費用の一部を負担するのみで済む可能性があります。
インプラント体が取れたり、破損があったりした場合
顎の骨に埋め込んでいるインプラント体が取れたり、破損が見つかったりしたときには、再手術が必要となるケースが多い傾向にあります。そのため、1回目の手術を受けた際と同程度、あるいはそれ以上の治療費が必要です。
特に、インプラント周囲炎を発症していた場合は、インプラント体が歯周病菌で汚染されている可能性があるため、パーツの再利用はできません。したがって、新しいインプラント体を作成する費用もかかってきます。
目安は数十万~数百万円ですが、保証期間内なら治療費用を安く抑えられる可能性があります。
まとめ
インプラントが取れてしまった場合、まずはどのパーツが取れたのかを確認して清潔な容器に保管しましょう。患部から血が出ていたら止血を行ないます。パーツによって取れてしまう原因や緊急性は異なりますが、いずれにしても患者様ご自身がやるべきことは応急処置のみです。
応急処置以上の対処を自力で行なうと、さらなるトラブルに発展する可能性があります。状態が悪化したり、治療費がかさんでしまったりすることを防ぐためにも、速やかに歯科医院に連絡を入れて受診しましょう。
本町通りデンタルクリニックでは、術後のアフターフォローも含めて、経験豊かなインプラント専門医師が対応いたします。ぜひ一度、お気軽にお問い合わせください。