歯を失った際、インプラント治療以外の選択肢はある?4つの治療法を7項目で徹底解説
2024.02.13
抜歯の選択しか残っていない場合、歯根の無い部分に人工歯を置く方法はいくつかあります。かつての治療方法に加えて、今はインプラントという画期的な技術の導入により、これまでの弱点をカバーできるようになりました。
しかし、そのインプラントにもいくつかのマイナス面はあります。患者様それぞれの歯の状態や生活習慣、ご予算に合った治療方法を選んでいくことが重要です。
自分の歯を失った場合に、インプラント治療以外の選択肢にはどのようなものがあるのでしょうか。各治療法の特徴やデメリットもあわせてお伝えしていきます。
インプラント以外の方法はある?おもな治療法4選
自分の歯を失った場合に、インプラント以外にももちろん治療法はあります。それぞれに様々な長所・短所があり、インプラントがすべての面において優れているというわけでもありません。
自分の歯の代わりとなる人工歯を設置するための治療方法は、主に4種類あります。
- 差し歯
- 入れ歯
- ブリッジ
- インプラント
これらはそれぞれに、どんな特性を持ち、どんな歯の状態の人に向いているのでしょうか。
差し歯
差し歯は、まず「自分の歯根が残っている」ことが前提となります。ここが他の治療方法との大きな違いです。
抜歯をする必要が無く、歯根を残すことが可能であれば、差し歯を選んでいただくことがほとんどです。
残っている自分の歯に「コア」と呼ばれる土台を設置し、「被せ物」「クラウン」などと呼ばれる補綴物(ほてつぶつ)を繋げていきます。この補綴物は、欠損部分を補う人工的な物という意味で、歯科治療でしたらいわゆる「人工歯」「義歯」になります。
差し歯に繋げる人工歯は、保険適用内のものと、適用外ものが選べます。目立ちにくい奥歯でしたらいわゆる「銀歯」、前歯でしたらレジンが保険適用内です。
保険適用外の素材を選べるご予算があれば、見た目は天然歯とほとんど変わらない義歯をご用意することができます。
入れ歯
入れ歯とは、取り外し可能な義歯のことです。部分入れ歯と総入れ歯の2種類があり、部分入れ歯は隣の歯に金属製のフックを引っ掛けて固定します。総入れ歯は、すべての歯を抜歯したあと、歯茎と義歯を簡易的な接着剤で留めます。
部分入れ歯も総入れ歯も、取り外しができることで、食後に入れ歯を外して隅々までお手入れができる衛生面が大きなメリットです。
保険適用外の人工歯を使うことで、審美性を高めることも可能です。
ブリッジ
ブリッジは、抜歯した箇所の両隣の歯を削り、そこに被せ物をして、それを土台として橋(ブリッジ)を渡すようにして欠損部分を補う治療法です。入れ歯に比べて安定度や強度、審美性は増しますが、虫歯ではない健康な歯を2本削らなくてはいけないことがデメリットです。
こちらも人工歯を保険適用外のものにすれば、天然歯と変わらないほどの綺麗な見た目を実現することが可能です。
インプラント
インプラントは他の治療法とは全く異なり、失ってしまった歯根を人工的に再生する治療になります。
「インプラント体」という土台を顎の骨の中に埋め込み、そこから「アバットメント」と呼ばれる支柱を出し、被せ物をします。
入れ歯、ブリッジは歯根の無いところに人工歯を置いているだけなので、咀嚼能力は人工歯よりかなり劣りますが、インプラントは歯根が形成されるため、咀嚼能力や強度が格段に違います。
機能性・審美性が高い一方で、保険が適用されない治療法ですので、費用が高額になることがデメリットです。
インプラントとそれ以外の方法を比較(1)費用
ここからは、4種類の治療法を7つの側面から比較していきたいと思います。
まずは治療費です。保険適用外の義歯を使用しない場合で比較していきます。
差し歯
前歯と奥歯では治療価格が多少違いますが、治療自体は保険適用されます。金額的には、奥歯のほうが安くなる場合が多いと言えます。被せ物の人工歯を保険適用内の素材にすれば、治療金額の相場は数千円となります。
入れ歯
部分入れ歯か総入れ歯か、という点でも金額は変わってきますが、数千円ほどで治療ができます。
入れ歯の大きな弱点のひとつとも言える、「フックが丸見え」を回避するには、フックが見えない入れ歯や金具を薄くするなどの対応も可能ですが、自由診療になります。
見た目や使い心地をどのあたりまで許容できるかなど、ご予算に応じて最適なものをお選びいただけます。
ブリッジ
治療自体は保険適用され、1本あたり1~2万円が相場価格となります。
インプラント
インプラントは保険外治療(自由診療)となりますので、差し歯・入れ歯・ブリッジと比べて金額は一気に高くなります。相場としては1本あたり30~50万円となります。
しかし、インプラントの寿命を日割り計算すれば1日100円ほどになる場合が多く、インプラントが持つたくさんのメリットを思えば決して「贅沢な買い物」ではありません。
インプラントとそれ以外の方法を比較(2)咀嚼能力
費用面と同じくらい気になるのが咀嚼能力です。食事に関することは生活の質に直結していますので、非常に重要な点です。
差し歯
天然歯での咀嚼能力を100%とすると、差し歯は60~70%程度となります。
他の治療法と比べて「自分の歯の根っこが残っていること」が非常に大きな強みなので、物を噛んでいる振動が歯根やあごの骨にまで伝わります。
ただ、上に被せる歯の素材にかなり左右される点では他の治療法と同じです。差し歯の場合の保険適用内の人工歯は、奥歯は銀歯、前歯は「硬質レジン」という白いプラスチックになります。銀歯は金属なので強度はありますが、硬質レジンはプラスチックのため、固いお煎餅を前歯でガリリと噛むことや、固いパンを前歯で引きちぎることなどはおすすめできません。保険適用外の、強度があって壊れにくい素材であれば、固いものでもしっかり噛むことができます。
とはいえ、根っこと人工歯と繋いでいる部品は経年劣化していくもので、あまり強い力を加え続けると寿命が短くなるので、やはり固いものを差し歯で噛むこと自体は避けていただくほうがいいでしょう。
入れ歯
入れ歯の咀嚼能力は20~40%程度となります。差し歯やブリッジのように、天然歯の根や両隣の歯にしっかり支えられていない状態ですので、咀嚼能力に関しては入れ歯における大きな弱点となります。
ブリッジ
ブリッジで固定している人工歯は、取り外しのできる入れ歯とは違い、両隣の歯を柱としてしっかりと固定できているので、咀嚼能力は60~70%程度になります。
インプラント
インプラントは金属を埋め込んで人工で歯根を作っていますし、両隣の歯にも負担をかけていないため、他の施術方法よりも咀嚼能力が非常に高いことが大きなメリットのひとつです。
天然歯と比較して、咀嚼能力は80~90%程度で、噛む振動もしっかり顎の骨に伝わるので「思い切り噛める!」と実感していただけるでしょう。
インプラントとそれ以外の方法を比較(3)審美性
例えば人と会話をする際、「口元が気になってつい隠してしまう」という癖を持っている人は少なくありません。せっかく治療をするなら、仕上がりの美しさも気になる点です。
差し歯
被せ物を保険適用内の材質にするか、自由診療の材質にするかで見た目は大きく変わってきます。
前歯で使用する保険適用内の硬質レジンは透明感がほとんどないため、義歯であることは明確です。奥歯で使用する保険適用内の材質は銀歯ですので、言わずもがな「銀歯が入っている」ということはすぐに分かります。
また、差し歯の場合は歯茎の変色も出てきます。義歯の中に使われている金属が溶け出し、歯茎に付着することでピンク色の歯茎が黒ずんできてしまう症状です。この症状を回避するには、自由診療にあたる非金属性の材質を選んでいただくと、歯茎の黒ずみを防ぎつつ、透明感のある天然歯に近い綺麗な歯に仕上がります。
入れ歯
隣の歯に引っ掛けるフックがある入れ歯はどうしても金属製のフックが目立ちます。費用の項目でお伝えしたように、保険適用外の治療であればフックを目立たないものにすることも可能です。
ブリッジ
こちらも差し歯と同じように、奥歯なら銀歯、前歯なら硬質レジンなどが保険適用内の材質となります。入れ歯のように部品が外に出ているわけではないので、入れ歯ほどの見た目の違和感はありませんが、保険適用内の材質を選ぶと天然歯との違いが目立つこともあります。
自由診療の材質をお選びいただくと、見た目は天然歯に近い自然な見た目を再現できます。
インプラント
インプラントも外部に部品が露出することはありませんし、治療自体が保険適用外ですので、お好きな材質の義歯をお選びいただくことができます。
ご自身の天然歯とほとんど同じような色味・透明度を再現できるので、一見しただけでは人工歯だと分からないレベルの審美性を確保できます。特に当院には歯科技工室がありますので、お客様の要望に合う義歯を作ることが可能です。
インプラントとそれ以外の方法を比較(4)他の歯への影響
差し歯
差し歯は残存しているご自身の歯に、人工歯を差し込む治療法ですので、両隣の歯には影響はありません。
入れ歯
隣の歯にフックを引っ掛けて人工歯を固定する入れ歯は、両隣の歯に多少の負担はかかります。入れ歯を毎日取り外して洗浄するなどのお手入れが必要となるので、少なくとも1日1回は取り外す必要があります。その際にフックがこすれますので、両隣の歯に傷がつくこともあります。
ブリッジ
他の歯への影響という面では、ブリッジが最も大きなデメリットのある治療法と言えるでしょう。虫歯でもない、健康な両隣の歯をわざわざ削らなくてはいけませんし、その上から人工歯をかぶせるので、数年後に中で虫歯になってしまう可能性もあります。
ブリッジの支えとして利用しなければ健康な歯のままでいられたかもしれないのに、削った上に虫歯になってしまったら、とてももったいないことです。
最近は、「接着性ブリッジ」と呼ばれる、削る量がかなり少なく済む治療も登場していますが、治療を受けられる症例は限られており、現在はまだ一般的な治療にはなっていません。
インプラント
先述したように、インプラントは独立した人工の根っこを作るので、両隣の歯を支えにする必要がありません。他の歯に影響を与えにくい人工歯となります。
インプラントとそれ以外の方法を比較(5)治療期間
治療に通う期間も気になるところです。お仕事のあとや休日を使って通っていただく方が多いため、できるだけ治療期間が短いほうが望ましいというのが患者様の本音だと思います。
差し歯
約1~2か月程度となります。
入れ歯
既に抜歯が済んでいて、傷口も完治している状態から、だいたい2週間~1か月ほどで入れ歯が出来上がってきます。
ブリッジ
こちらも既に抜歯が済んでいて、傷口も完治している状態から、だいたい1~2か月となります。
インプラント
インプラントにおけるデメリットの一つが、治療期間になります。早い場合で3か月、長い場合で1年ほど治療に要します。
しかし、専門的で高度な技術が必要な治療である上に、できれば半永久的にご使用いただきたいという理由から、慎重にしっかり治療を進めたいためにこのような期間となっています。
インプラント体を顎の骨に着実に埋め込めるまでの骨量のない患者様には、先に骨造成治療を行うなど、患者様それぞれに治療期間は大きく異なってきます。
インプラントとそれ以外の方法を比較(6)使用感
さきほどお伝えした咀嚼能力とは別に、歯の快適度についてご説明します。歯には食べ物を噛む機能以外に、たくさんの役割があります。人工歯になってから、自分の歯があったときには気付かなかった不便を感じてしまうこともあります。
差し歯
噛み心地も天然歯とあまり変わらない差し歯は、使用感においてもそれほど違和感なくご使用いただけます。
ただ、先ほどお伝えしたように、あまり強い負荷をかけてしまうと差し歯の寿命に関わってきますので、天然歯と同じようにどんどん噛んで使っていくことは意識的に避けたほうがいいと思います。
入れ歯
入れ歯は取り外しが簡単にできる状態になっています。そのせいで歯茎と入れ歯などの隙間に食べ物のカスが挟まりやすく、お食事中に不快感を感じられる人も少なくありません。お家での食事ならまだしも、お友達と一緒に外食している最中に食べ物が挟まってしまい、「喋りにくい…」「食べにくい…」なんて場面も多いようです。
また、できるだけピッタリとフィットするように精巧に入れ歯をお作りするのはもちろんですが、患者様の噛む癖や喋る際の舌の動きなどによって、金具が歯茎や舌、頬の内側に当たって痛いと感じられる方も少なくありません。その他にも、外れやすい、外しにくいなどの問題が起きやすく、入れ歯完成後にも細かな調整が必要となる場合があります。
食べ物のカスが挟まりやすいということから、入れ歯自体に取れないニオイが付着することもあります。洗浄剤などを使ってもなかなか落ちず、入れ歯を装着し始めて数年後に「口のニオイが気になる…」という方もいらっしゃいます。
ブリッジ
こちらも差し歯と同じように、それほど違和感なくご使用いただけます。両隣の2本の歯に支えられているので安定感もあります。
支えにしている両隣の歯には被せ物がしてある状態ですので、その2本の歯が虫歯や歯周病にならないよう、しっかりと丁寧に歯磨きをしていただくことが非常に重要となります。
インプラント
顎の骨としっかり繋がっているインプラントは自分の歯と遜色ない使用感を実現できます。メンテナンスも他の歯の定期検診の際に一緒に診させていただく程度で大丈夫ですし、精密に検査しながら口腔内で違和感のない人工歯を埋入いたします。
インプラントとそれ以外の方法を比較(7)寿命
人工歯は、「一生モノ」とはなかなかいきません。お手入れの正確さであったり、患者様それぞれの体質にも左右されますが、それぞれの治療法にはどうしても寿命があります。
差し歯
保険適用内の差し歯であれば約10年、自費診療のもっと強い材質なら約20年が差し歯の寿命と言えます。
強い力をあまりかけないよう気を付けていただき、歯磨きもしっかり丁寧にしていただくことでもっと長くお使いいただける場合もあります。
また、差し歯を入れたときの年齢も寿命を左右します。永久歯が生えてきてまだ数年や10代前半など、歯の成長が完了していない年齢で入れた差し歯は、成長してきた他の天然歯に比べてだんだん小さくなりますので、新しい差し歯に入れ直す必要が出てきます。
逆に中年期~高年期に入れた差し歯の場合は、加齢が進むと歯茎も痩せていきますので、安定性をキープしづらくなり、入れ直しということがあります。
入れ歯
入れ歯の平均寿命は約4~5年ほどになります。さきほどお伝えしたニオイの問題も出てきますし、歯茎が痩せてきて金具が合わなくなってきた、などの原因で作り直しとなる場合が多いでしょう。
ブリッジ
ブリッジの平均寿命はだいたい7~8年です。支えにしている両隣の歯がどうしても虫歯になりやすいという理由がこの寿命の要因となっています。もちろん、丁寧にしっかりと歯磨きをしていただくことで寿命は変わってきますので、10年以上お使いいただける方も多くいらっしゃいます。
しかし、被せた歯の中が虫歯になってしまうと、既に削っている自分の歯をさらに削ることとなり、支柱としての耐久性がなくなります。すると結局両隣の歯も抜歯することになってしまうケースもあるため、丁寧なブラッシングと、こまめな定期健診が非常に重要です。
インプラント
インプラントの平均寿命は10年から15年ですが、中には20年、35年、再手術無しにずっとご使用いただけるケースも多くあります。
インプラントにかぶせてある歯は人工歯なので虫歯になることはありませんが、しっかりケアができていないと歯茎のトラブルは充分に起こり得ますのでご注意ください。
インプラントが埋め込んである部分は周囲の血管と繋がっていないため、細菌感染に弱いという側面があります。インプラントの周囲もしっかり歯磨きをしていないと、歯周病などにかかる恐れがあり、歯周病は一旦発症してしまうと自然治癒はしない怖い病気です。「インプラント周囲炎」という、インプラント特有の症状もあります。
インプラントはしっかりした健康な歯茎があってこそですので、普段の歯磨きや定期検診がインプラントの寿命を左右すると言っていいでしょう。
まとめ
7項目にわたって4種類の治療法を比較してきました。
残念ながら現在の歯科医療では、7項目すべてに◎をつけられる治療法がありません。現在ある4種類の治療法の中から、患者様の歯の状態とご予算に合わせてベストなものを医師と相談しながら選んでいただきたいと思います。
費用面と治療期間をクリアできれば、やはり当院としてはインプラント治療をおすすめしますが、中には例外もありますので、「とにかくインプラントにしておけば間違いない」というわけでもありません。
例えば、自分の歯が残存しているなら、抜歯してインプラントにするよりも、残った歯を大事にして、差し歯という治療をするのが最適だと思います。根の部分が自分のものかどうかで噛む感覚は変わってきますので、食べ物を食べる際の違和感も少ないはずです。
歯根がどれくらい残っているのか、残っている歯根は健康なのか、歯茎の状態、両隣の歯の状態、顎の骨の骨量など、患者様の口腔状況に合わせてベストな治療法をご提案させていただきます。ぜひ大阪の本町通りデンタルクリニックにご相談下さい。